こんにちは。
大阪市の税理士、山本健介です。
今日は「節税」とはどういう意味か、どんな方法があるのかについて考えてみたいと思います。
事業を経営していると、「税金高いな」「もっと安くならんかな」と思うことはありますよね。
私も、「節税の方法を教えてほしい」とストレートに言われることもあります。
今日はその「節税」について、まとめてみたいと思います。
税金の計算方法は「利益×税率」
節税、つまり税金を減らす方法を考える前に、まず税金の計算方法を確認しておきましょう。
ざっくりいうと、その年の「利益」に「税率」をかければ、「税額」が計算されます。
※「利益」の部分は税法の専門用語では「課税所得」と言いまして、厳密には同じではないのですが、その話を始めるとややこしくなるので、ここでは「利益」としています。
つまり、「利益」を減らすか、「税率」を減らせば、税金は減ります。
ただし、「税率」は利益の額や税金の種類に応じて、基本的には決まっています(選択できるものもあるので、それは後ほどご紹介します)。
「税率」が決まっているとすると、減らせるのは「利益」しかないです。
「よし!じゃあ税金を減らすために、利益を減らそう!」
と、計算式ではそうなりますが・・・・・・
これって、、本末転倒じゃないですか?
たとえば今、利益が1,000万円あります。税率は30%とします。
そうすると、税金は300万円、手元に残る税引後の利益は700万円ですね。
「300万円の税金は高いな!利益を減らそう!」
無駄な出費を900万円したとします。利益は100万円に減ります。
税金は30万円、税引後の利益は70万円ですね。
無駄な出費をしなければ、手元に700万円残ったのに、税金を減らすために出費をした結果、手元に70万円しか残らなくなりました。
「こんなバカな話は、自分はしないよ」
と思うかもしれません。
実際、このブログをここまでご覧の方はきっと勉強熱心なので、こんな無駄遣いはしないでしょう。
でも、現実にはよくある話なのです。
当期は利益が出ると知ったとたん、決算前に中古の高級外車を買ってしまう社長とか・・・
気持ちはわからなくもないのですが、その支出が来期以降の売上をどれだけ増やしてくれるのか、つまり投資効果はどれほどのものか、よく考えないといけません。
とにかく税金が減ればOK、ではないのです。
節税とは法律を正しく適用すること
ではここから、具体的な節税の方法について見ていきましょう。
上で、「利益」と「課税所得」は同じではない、という話を少ししました。
ここがポイントです。
決算書上の「利益」は減らさないけど、確定申告書上の「課税所得」を減らせれば、税金は減ります。
そして、その「課税所得」を法律で認められた方法で減らすことを「節税」と呼びます。
この法律で認められた方法、という点が大切です。
法律、さらには判例や通達(国税当局の内部規定)で認められた方法によらず、独自の方法で課税所得を減らすと、どうなるか。
将来の税務調査で否認され、もともとの税金に加えて加算税や延滞税など、かえって多額の税金を負担することになってしまいます。
ですので、法律や判例、通達などの正しい知識と理解が、節税のためには不可欠です。
節税の方法を大きく分けると、
1.青色申告によるもの
2.計算方法の選択によるもの
3.解約制限を伴う資金移動によるもの
4.特殊な給与、現物給与によるもの
5.その他
となります。
では、ひとつずつ見ていきましょう。
1.節税の基本は「青色申告」
複式簿記の方法(※)で、会計帳簿に正しく取引を記録する。
(※ 簿記検定で学ぶ一般的な会計の記録方法です。)
そして正しく税金を計算して申告すると、法人税・所得税の計算上、優遇措置の適用があります。
これを青色申告といいます。
青色申告の優遇措置には、例えば、以下のようなものがあります。
1)青色申告特別控除(個人事業主)
最大で65万円を利益から控除できる。
2)青色事業専従者給与(個人事業主)
自身の事業に専従している(他の仕事はしていない)家族に支払う給与を経費として扱う。
3)欠損金の繰越控除(法人、個人事業主)
過去に生じた事業の赤字(損失)を、今年の利益から控除できる(法人10年、個人事業主3年)。
4)少額減価償却資産の即時償却(法人、個人事業主)
30万円未満の資産を、その年に全額経費計上できる(ただし、合計で年300万円が限度)。
これらは、事前に税務署長に申請書を提出したうえで、正しく税金を計算すればだれでも適用を受けられるものです。
節税の方法として基本中の基本です。まずは青色申告から始めてください。
2.有利な計算方法の選択
正しい税金の計算方法って、常にひとつ、ではないんです。
法律で認められた方法が2つ以上あるなら、そのうち最も税金が安くなる方法を選べばいい。
そういう節税の方法もあります。
1)法人成り
個人の所得に対して課されるのが、所得税。
その税率は、その年の所得の大きさに応じて、5%から45%までの間で課されます。
45%は高いですね!でもこれは国に支払う部分だけ。
個人の所得にはさらに、住民税が10%。
さらに一定の事業を行う個人事業主には、個人事業税が最大で5%の税率で課されます。
一方で、法人の所得に対して課されるのは、法人税、法人住民税、法人事業税。
これらの税率は、その所得の大きさに応じて、合計するとおおよそ20%台前半から30%台前半の間です。
つまり、所得が少ない最初のうちは、個人事業主として事業をする方が税率は低いでしょう。
でも事業が拡大して利益が増えだすと、法人にした方が税率が安いときが、いつかは来るんですね。
そんなときは法人の設立も検討しましょう、という節税方法です。
2)簡易課税(消費税の申告)
消費税の申告は、①から②を引いた差額を納付するのが原則的な方法です。
①売上代金を受け取ったときに、一緒に預かった消費税
②仕入や経費を支払ったときに、一緒に支払った消費税
ただし、この消費税の含まれる売上(課税売上といいます)が2年前の年に5,000万円以下だった場合、売上高だけから消費税を計算する、簡易課税という方法を選択することができます。
この簡易課税は、②の消費税を業種によって、売上の90%から40%の比率で、6段階で自動的に計算してしまいます。
計算方法が簡易だから、簡易課税というんですね。
(ただ、その業種の判定は難しいですし、例外規定もあるので実際そんなに簡易な方法ではないのですが・・・)
この簡易課税を利用したい場合、事前に税務署長に届出が必要です。
事前に翌期の消費税をシミュレーションして、税金が低くなりそうなら簡易課税を選ぶ(届出を提出する)、という節税方法です。
一度選ぶと、2年間は戻せないので、慎重に検討してくださいね。
3.解約制限を伴う資金移動
『HUNTER×HUNTER』というマンガに、クラピカという登場人物がいます。
彼は、復讐相手の「幻影旅団」メンバーにしかその力を使わない(誓約)、それを破ったときには自らの死を受け入れる(制約)という条件で、「相手の能力を封じる」という能力を身に付けます。
マンガをご覧になった方なら、「誓約」と「制約」という言葉は、印象に残っているかもしれません。
なぜこんな話をしたかというと、これから紹介する節税方法も、この「誓約」と「制約」に似ているなと思ったからです。
これからご紹介する方法はすべて、自分の口座から別の自分の口座に、一定の期間にわたって資金を移動させます。
すると、その移動した金額が経費扱いになる(または所得から控除される)という節税方法です。
ただし、その移動させた資金は、それぞれの条件が満たされるまで使えない、という制約を受けます。
1)小規模企業共済
小規模企業の経営者や役員、個人事業主が、自らの退職金を積み立てるための制度です。
国の機関である中小機構が運営しています。
掛金は毎月1,000円から7万円までの間で、500円単位で自由に決められます。
退職金ですので、
①廃業
②65歳を過ぎて納付期間15年以上
③納付期間20年以上
などの条件のいずれかを満たさなければ、受け取れません。
(上記の要件を満たさない途中解約をすると、納付した掛金より減額して戻ってきます。)
納付した掛金は、その納付した年の所得から控除できますので、所得税・住民税の節税になります。
2)中小企業倒産防止共済
経営セーフティ共済とも呼ばれます。
取引先が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
掛金は、毎月5,000円から20万円までの範囲(5,000 円単位)で自由に設定できます。
掛金の総額には上限があります。800万円を超えて納付することはできません。
40ヶ月未満で解約すると、掛金が減額されて戻ってきます。
掛金は、その年の事業経費として扱われますので、法人税(所得税)、住民税、事業税の節税となります。
ただし、解約して戻ってきたお金は、事業収入となりますので、その年には課税されます。
3)個人型確定拠出年金(ideco)
こちらは、事業者だけでなく会社員でも加入できる制度ですね。
証券会社に口座をつくって毎月積み立て、投資信託などの資産を自分で運用します。
60歳を過ぎるまで引き出せませんが、毎月の積立金はその年の所得から控除されます。
4.特殊な給与、現物給与による節税
たとえば会社が、役員や従業員に給与を支払います。
会社は、その支払った給与を経費として計上しますので、その分だけ利益が減り、税金が減ります。
受け取った個人(役員・従業員)はどうでしょうか。
こちらは、その給与に所得税が課されます。
お金を支払った方では税金が減り、受け取った方は税金が増える。
これが原則で、当たり前の話ですね。
ただし、今から紹介するのは、支払った側では経費、でも受け取った側では課税されない、というものです。
ただし、金額は常識的な範囲(または実費)でなければなりません。
1)旅費(出張手当)
2)交通費(通勤費)
3)結婚・出産等の祝金など
4)葬祭料、香典、見舞金など
また、お金ではなく、役員や従業員に物品(モノ)を支給した場合はどうでしょうか。
原則はそのモノの価値の金額が、給与として課税されます。
ただし、課税されないものもあります。
1)残業食事代
2)制服、作業服等の支給
3)社宅の貸与(一定額を自己負担している場合に限る)
4)レクリエーション(社内旅行など)の費用
5)永年勤続の記念品など
6)創業〇周年の記念品など(10,000円以下に限る)
7)自社製品の値引き販売(定価の70%以上に限る)
8)福利厚生施設(スポーツジムなど)の利用
これらを法律や通達に沿う形で支給すれば、給与とはならず、受け取った側で課税されません。
5.その他
1)住宅ローン控除(個人)
要件を満たした住宅をローンで購入した場合、それから10年間、ローン残高の1%を所得税・住民税から税額控除できます。
事業者に限りませんが、適用できれば大きな節税となります。
2)ふるさと納税
税金が減るわけではない、むしろ2,000円増えます。
ただし、その2,000円で返礼品がもらえます。
返礼品の価値が2,000円を上回れば、それだけ得をする制度です。
※いくらくらい納税(寄付)をすれば得をするのかは人それぞれで、その年の状況によって異なります。
3)積立NISA、NISA
株式などへの投資で売却益が非課税になる制度です。
結局、節税とは
今回は、身近な節税の方法について、まとめてみました。
正直な話、だれでもすぐに簡単に使えて、税金をゼロにできる魔法のような節税方法はありません。
事業に関係のないプライベートのレシートや領収書を経費に入れれば、利益は簡単に減らせるでしょう。
でもそれは節税ではなく脱税であり、犯罪です。
そのような方法は問題外として、節税の基本は、まず正しい記帳による業績の正確な把握です。
月次決算で毎月の業績を把握することで、将来の業績や決算での納税予測ができます。
そうすれば、いつどれくらいの投資をするかの判断もしやすくなります。
節税のための出費は考えずに、事業を成長させるための投資にお金を使ってください。
その方が、結果として手元に残る資金は多くなるはずです。
結局、節税とは、法律などで定められている複数の方法から、最も有利な方法を適用すること。
つまり、税理士が顧問先のために日々行っていることにほかなりません。
そのため、その方法は顧問先ごとの状況を考慮して検討する必要があり、
「この方法で誰でも節税できる!」
というものではありません。
「これを食べれば(飲めば)、誰でも健康になれる!」
そんな食材やドリンク、お薬が存在しないのと同じで、誰にでもあてはまる簡単な節税方法はありません。
かかりつけの医者が頼りになるように、事業の状況を適切に診断して、アドバイスをしてくれる税理士をぜひ見つけてください。
以上、長くなりましたが、節税について考えをまとめてみました。
何かひとつでも、ここまで読んでくださった方の参考になることがあれば幸いです。
上に書いた内容について、もっと詳しく知りたい事業者の方がいらっしゃいましたら、下の問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。