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租税法律主義と武富士裁判

【日本国憲法】

第30条

国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

第84条

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

 

【武富士裁判】

消費者金融大手の武富士(当時)の創業者である会長が、香港に出国した長男に、実体のないオランダ法人を通じて会社株式の生前贈与を行った際の、贈与税の課税の可否が争われた裁判。贈与が行われた平成11年時点の相続税法では、海外居住者に対する海外資産の贈与は非課税とされていた。長男の日本の住居所在地を所轄する杉並税務署は平成17年、本件贈与につき1,157億円の贈与税納付もれと173億円の加算税を賦課決定し、長男はそれらを納付の上、取り消しを求めて提訴。第一審・東京地裁は納税者勝訴、第二審・東京高裁は国税勝訴となり、最高裁は第一審を支持。納付済みの税額の還付に加えて約400億円の還付加算金が支払われたと報道されている(最高裁判例)。

 

 

こんにちは、大阪市城東区の税理士、山本健介です。

今回は、武富士裁判を題材に租税法律主義について書こうと思いました。

思いました、というのは、書こうとは思いましたが、まだ何を書けばよいのか、わからずにいるからです。

タイトルに「租税法律主義」と書いてみましたが、書いた後でそのテーマの深さといいますか、ハードルの高さを感じてしまい、何を書こうか迷っておりますが、とりあえず感じていることを書いてみます。

 

何が言いたいかといいますと、税法も法律なんです、ということです。

税務について、例えばある取引が税務上どのように取り扱われるのか、といったことが議論される際に、自身の経験に基づいてだったり、何か信念(税とはこうあるべき!というような。もしくはこの取引が課税されるはずない!というご本人の願いのようなもの)に基づいてだったりでお話をされる方がいらっしゃいます。

そういった方のお話は大変参考になるのですが、残念ながらあくまで参考以上のものにはならなくて、結論を出すには法令に基づいて検討を進める必要があります。

それはなぜかというと、日本では法律に基づかなければ課税されないという、租税法律主義が憲法で定められているからです。

それが端的に表れたのが、平成23年の武富士の裁判(最高裁判決)でした。

 

この裁判では、香港と日本の両方に居宅があった長男の「住所」はどちらなのか、が争点になりました。裁判においては、

 

対象になった期間中の香港滞在日数は65.8%、国内滞在日数は26.2%であった

香港での滞在はホテルのような清掃等のサービス付きアパートメントで本人は衣類以外の荷物を香港に持って行かなかった

保有資産の99.9%以上は日本にあった

香港への出国にあたり、住民登録につき香港への転出の届出をした

香港において、在香港日本総領事あて在留証明願、香港移民局あて申請書類一式、納税申告書等を提出し、これらの書類に香港居宅の所在地を住所地として記載した

香港への出国の時点で借入れのあった複数の銀行及びノンバンクのうち、銀行3行については住所が香港に異動した旨の届出をしたが、銀行7行及びノンバンク1社についてはその旨の届出をしなかった

 

など、香港と日本のいずれに生活の本拠があったかの判断材料が数多くあげられました。

生活の本拠が日本にあった、となれば、国内居住者に対する海外資産の贈与として贈与税の課税対象となります。実際に東京高裁はそのように判断しました。

 

しかしながら、最高裁はその高裁判決を破棄しました。高裁は、長男が贈与税を回避するためという意思をもって香港と日本の滞在日数を調整していた、という事実から、香港と日本の滞在日数を住所の判定要素から外したわけです。一方で最高裁は、それは法の解釈として限界がある(香港滞在日数が国内の2.5倍であれば生活の本拠は香港であり、それを否定しうる事実は認められない)、もしそのような租税回避を認めたくないのであれば、それは立法によって対処すべきとしたのです。

その結果、400億円という巨額の還付加算金が、国民の税金からひとりの納税者へ支払われることになりました。

 

この判決は、当時の国民感情としては受け入れがたいものがあったと思います。

租税回避の意図をもって法律の抜け穴をついたスキームで、実際に多額の贈与税を回避したうえ、還付加算金までが支払われました。

ただ、最高裁としては、あくまで課税は法律にもとづいて行われなければならない、法律のないところに司法が安易な拡大解釈を行って課税が行われることは許されない、と判断した事例です。

 

この最高裁の判決文には、その最後に裁判長の補足意見が付いています。

その補足意見の中で裁判長は、オランダ法人は単なる器であり、贈与された資産の実体は国内で無数の消費者を相手にした利息収入であること、長男にその贈与税の担税力は備わっていると考えられることなどから、著しい不公平感は免れえず、違和感も感じるものの、個別の否認規定がないのにこの贈与税回避スキームに課税することは困難であると述べています。

そしてその理由として、憲法第30条、第84条の租税法律主義のもとでは、厳格な法解釈がもとめられ、法解釈によって不当な結論が不可避であるならば、立法によって解決を図るのが筋であり、裁判所としては立法の領域まで踏み込むことはできない。

「結局、租税法律主義という憲法上の要請の下、法廷意見の結論は、一般的な法感情の観点からは少なからざる違和感も生じないではないけれども、やむを得ないところである。」

補足意見を締めくくったこの最後の一文が、租税法律主義の立場を表していると思います。

 

以上、最高裁判例を見ながら租税法律主義という考え方についてご紹介しました。

この租税法律主義というテーマについて、私自身まだまだ理解不足ですが、税理士としてまず条文をしっかりと読まなければならない、とあらためて思いました。

難しいテーマでしたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の投稿者:

山本健介 1983年兵庫県加古川市生まれ。現在は大阪市城東区で税理士事務所を開業しています。税理士業界で10年以上、中小企業から上場企業まで会計・税務のお手伝いをしてきました。国際資格の専門校アビタス非常勤講師(USCPAコース担当)。米国公認会計士。お笑い好き。サッカー日本代表を応援しています。中国語勉強中。

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